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91年に京都で大沢伸一がリーダーとなり結成されたモンド・グロッソ。京都という日本の一都市で活動する自分達を皮肉ってつけたバンド名MONDO GROSSOはイタリア語で“大きな世界”という意味。逆にそれは結成当時から自分達が世界水準の音楽を奏でているという自負でもあっただろう。 1993年1stアルバム『MONDO GROSSO』でメジャー・デビュー。当時、新しい世代による、新しい感覚でジャズを捉え直すアシッド・ジャズ・ブームが世界を席巻していたが、その震源地であるイギリスはロンドンのクラブでモンド・グロッソの楽曲は普通にプレイされ、カッティング・エッジなチャートに入り、イギリスを始め、ヨーロッパ各国でライヴ・ツアーを敢行した。それはまず日本で成功し、「次は世界だ」でなく、キャリアの最初から、日本国内に閉じこもるのではなく、世界水準という視点でクリエイティヴされ、実際に外に出て演奏し、受け入れられたということなのだ。しかも、インターネット前夜の90年代前半で。その模様はライヴ・アルバム『The European Expedition』に熱気と共にパッケージされている。

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90年代、今では考えれないがCDセールスが200万枚、300万枚を記録していた時代。ソウル、R&B、ブラジリアン、ジャズなどを消化した、メインストリームとは違う、新しい世代による新しい感覚のアーティストが台頭した。先に挙げたように世界の音楽シーンとシンクロし、日本語と英語という言葉の偏見もなく、むしろ自由に操り、さらに普通にヘッドホンで聴くのと、クラブで大音量でかかることの大きな壁さえ越える新しい音楽。それらを総称して「渋谷系」と括られたが、大事なのはクオリティが高く、センスが良く、あらゆる「当たり前」を打ち破ったレボリューションであったということ。その最中の1995年、2ndアルバム『Born Free』はリリースされ、シーンを牽引する存在となった。そして、再び、ヨーロー・ライヴ・ツアーを敢行したのだった。

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1997年にリリースされた3rdアルバム『CLOSER』は衝撃だった。バンド形式から大沢伸一が楽曲により様々なアーティストをフィーチャーするソロ・ユニットとなり、飛躍的に自由度を増した音楽性。ここで展開されるのはミドル・テンポでメロウなR&B。この時期、UA、Chara、Monday満ちるなどをプロデュースし、それらの楽曲はクラブでヘビープレイされ、新しい世代による新しい感覚の音楽は、徐々に東京から全国的に広まっていった。そして、この後、メインストリームのカウンターであったロックに変わって台頭してきたR&Bをベースにした音楽は、宇多田ヒカル、MISIA、birdの登場で、ヒット・チャートの1位を獲得し、メインストリームに侵食するという「無血革命」が成された。『CLOSER』はこれに一歩も二歩も先んじた作品であったのだ。

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1999年、メジャー・レコード会社内に自らが主宰するレーベル〈REALEYES〉をスタートした大沢伸一が手がけた新人がbird。それまで大沢がアプローチしてきたソウル、R&B、ブラジリアン、ジャズなどを消化したサウンドに、birdによる日本語歌詞が融合した1stアルバム『bird』は80万枚を越えるセールスを越える「奇跡」を起こした。翌2000年にリリースされたモンド・グロッソの4thアルバム『MG4』は、当時、最先端のダンス・ミュージックの2ステップと大沢のルーツであるブラジリアン・サウンドが共存する高い完成度と、世界25ヵ国でリリースされたようなグローバルな視点が合わさった作品となった。また、シングル・カットされた「LIFE feat. bird」がヒット。ポピュラリティも同時に獲得するという快挙を成し遂げたのだった。

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モンド・グロッソがモンド・グロッソ、大沢伸一が大沢伸一たるゆえん。それは全身全霊をかけて作り上げ、少しずつ広まり、ついにはメインストリームの位置にさえ収まった、音楽スタイルを再生産せずに、むしろ、いとも簡単に捨て、次に、新しい地平に進む姿勢にある。大きな成功を収めた後、2003年にリリースされた5thアルバム『Next Wave』はタイトルに全てが言い尽くされている野心作。全編完全にフロア対応のモンド・グロッソによるハウス・ミュージック。一切の妥協も、一粒の甘さもないこの作品がメジャー・レーベルからリリースされ、チャート10位を記録したことこそ、どこまでも攻撃的でありながらも、そこにポップさが見事な配合で注入されるモンド・グロッソの本質が表れていたのだった。

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それから14年。大沢伸一名義として『The One』、『SO2』のアルバムをリリースし、世界を股にかけてDJプレイする一方で、安室奈美恵、JUJU、山下智久などのJ国内アーティストからBOYS NOIZEやBENNY BENASSIなどの海外アーティストまで数多くの革新的なプロデュース、リミックス・ワークおこなってきた大沢伸一が、モンド・グロッソを再生させるという報を聞いて、理屈抜きで心が躍った。それは間違いなく、よくありがちなノスタルジックなものではなく、2017年という「今」だからこそ、必要な音楽になるはずだろうから。

もう一度記したい。どこまでも攻撃的でありながらも、そこにポップさが見事な配合で注入される音楽。言葉にするとアンヴィヴァレンツだが、それを成立されるのが音楽。音楽は決して「アイテム」や「消費物」だけではない。時に煩雑な日常を忘れさせ、時に人の心・精神を包み、時に新しい扉を開けんとする際に後押しをしてくれるアートフォームであってもいいはずだ。

僕はまだ音楽の力を信じている。モンド・グロッソの新曲のラフMIXを数曲聴いただけで再確認した。14年振りのアルバムが心から待ち遠しい!

山崎二郎(『バァフアウト!』編集発行人)